C O L O R  ×  G A M E

春。
日差しも柔らかくなり、緑が芽吹くこの時期は、装いも新たに生活を始める人も多いだろう。
入学、進学、就職・・・。
と、まぁ色々あるとは思うが彼女・・・・もそんな中の一人だった。
赤に黄色、紫にピンク。
オレンジに白、そしてグリーン。
色とりどりの切り花や、小さく可憐な蕾を付けている鉢植え。
誰に贈られるのだろう、愛らしいブーケ。数々の花達が並ぶこの花屋は本日オープンを迎える。
池袋のとある公園のすぐ近く。
小さいながらも我が城と、は店先にグリーンの鉢植えをディスプレイしながら満足げに微笑んだ。
子供の頃からの夢がついに叶うのだ。浮かれない訳が無い。
お客様は来るだろうか?と言うドキドキ感と、今日から始まる新しい自分へのワクワクした気持ちが相まって、
なんとも言えない楽しい気分が体中を駆け巡っている。
頭も、身体も自分が今此処にいる幸せで一杯だった。


だから、は知らなかった。
この日の朝、池袋で起こっている出来事を・・・。
この後、の気持ちをどん底に落とす事になる出来事・・・
そして、その元凶との出会い・・・





「うん、上出来!」


店内で幸せ一杯な笑みを浮かべ、ウンウンと頷いたの目の前に何かが飛んできた。
それは、ヒュンッと言う鋭い音を立て頬のすぐ横を通り過ぎた。
見えた色は赤と白。
次に聞こえた音は、ガッシャーン!!と言う激しいクラッシュ音。
恐る恐る後ろを向く。






―――向きたくない!
     絶対イヤな事態になっているしっ!!
     アッ、でも・・・もしかしたら最近オープン準備で忙しかったからな・・・
     ほら、疲れてたし、運が良ければ幻覚かも・・・・・・・・・・







なんて、そんな事がある訳ない。

「・・・・・・・・・・・」

しばしの沈黙。

「ヒッ!アッ、アッ・・・・」

言葉が喉の奥につっかえて声にならない。
ようやく出て来たその声は悲鳴か罵声か・・・。




「ナンジャコリャアァァァァァ!!」





店の奥にあるカウンターに突き刺さったは(たぶん)駐車禁止の道路標識。


―――さっきの赤と白はコレか!

と冷静な自分が言っている。



―――何故?どんな理由で道路標識が投げ込まれた?
     この土地を借りる時だって特に問題無かったし、お隣さんへの挨拶だってバッチリで・・・



そう考えていると、にわかに外がざわめき始めた。
はこの怪奇現象とも思える事態の原因を突き止めるべく、何やら騒がしくなった外へと乗り出した。
ソコでは、自分の理解を遥かに超えた出来事が繰り広げられていた。







「イーザーヤー君、池袋には来るなって言ったよなぁ」

と、バーテン服の男が言ったかと思うと

「ヤだなぁ、シズちゃんをからかいに来たに決まってるじゃないか」

とイザヤと呼ばれた黒髪の青年が答える。

「イーザーヤァァァァ!!!」

シズちゃんと呼ばれたバーテン服の青年は、そう叫ぶと近くにあったガードレールをいとも簡単に引っこ抜き、
それを高々と持ち上げる。
ブン!!
という風を切る音と共にソレは投げられた。
ガッシャアァァァン!
けたたましい音を立て、ガードレールが落ちて来る。
それもの足元すぐの所だ。
あと数センチ前に出ていたら大惨事・・・。ゾッとする。
と言うより、目の前にいる二人の男にゾッとした。




―――何をしてんの?
     簡単に考えると「喧嘩」ってのが近いのだろうけど・・・
     『シズちゃん』は青筋立てて怒っているけど、『イザヤ』君の方は楽しそうだ。
     池袋って恐ろしい・・・
     イヤイヤ、池袋じゃなくってこの二人が恐ろしい。





「アハハハハハ。駄目だよ、シズちゃん。道路標識とかガードレールって公共の設備だよ。引っこ抜いちゃ駄目だよ」
「うるせぇ!!死ね臨也!!」

シズちゃんはいとも簡単に(多分二本目の)道路標識を引っこ抜くと、当たり前の様に投げつけた。
ソレはまたしてもの店内にゴールした。


―――この世の終わりだろうか?





「じゃあねぇ、もう飽きたからそろそろ行くね」

そう言うと、軽やかな足取りでの前を横切った。
彼女と、彼女の店など見向きもしない。

「待ちやがれ!!」

ソレを追うようにシズちゃんが走る。
フツフツと沸きおこるのは勿論、怒り。
もう我慢できないと、はキッと顔を上げる。

「待つのはアナタの方でしょうがぁぁぁぁ!!」

思いっきり叫ぶと、前を通り過ぎようとするシズちゃんの襟首をグイッと掴み、力いっぱい引っ張った。

「人んちの店、崩壊させといて、何もナシとはどういうつもりよ!
 アナタとイザヤ君とやらにどんな因縁があるのかは知らないけど、
 人としてこの店の状態見たら一言くらい謝るのが筋ってもんじゃないの!!」

バランスを崩したシズちゃんはその場に尻もちをついたままで、呆気に取られたまま烈火の如く怒る女性に懇々と説教を食らった。










「って事を思い出してたの」

ソファーの上で男に後ろから抱きかかえられた格好で、は話した。

「勘弁して下さい。あの日の事思いだすと申し訳無くって・・・」

心底困った様子の男・・・シズちゃんコト、平和島静雄は申し訳なさそうにに笑いかけた。

「でも静雄はちゃんと謝ってくれて、そのあと店が軌道に乗るまで手伝いに来てくれたでしょ?」

ニッコリと笑いかけるをギュウッと抱き締めた。

「お陰で静雄と仲良くなれたし・・・つまり、私は幸せなんすけど」

上目づかいで見つめられ、静雄はドキッとする。
ドクドクと心臓が痛い位になってその度に

「俺も、その・・・さんと一緒にいれて・・・すげぇ幸せです」

そう思う・・・。