いつもより1.5倍は目線が高くなったんじゃないかと思う。今ならサイモンと並べるぐらいになったかもしれない。
通行人も驚いたように私を見るし、進行方向に居る人たちは自然と海を割ったモーゼに命じられたかのように道を開ける。
まるで私自身が何かスーパーヒーローのように強くなった感覚さえしてしまうのだ。

と言っても、私は違う意味で注目を集めているのであって。
それは私のせいじゃなくて、池袋最強と呼び声の高い平和島静雄のせいなのだけど。
背負われる私と静雄の図。
そりゃあ勿論、静雄を知る人は目を見開いて驚いたし、それに加え私の顔まで凝視する始末。
知らない人でも、ただでさえ長身の静雄が人を掻き分けるか如く進んでいくものだから道を譲らざるを得ないようだった。
知り合いにはこんな所見られたくないのだけど、それは私の運次第と言ったところよね。
特に冷やかされそうな人とは会わないことを祈るばかりだ。紀田くんとか、紀田くんとか、紀田くんとか。

「ねぇ静雄、何回も言うようだけど降ろしてくれていいからね?」
「駄目だ」
「うぅ…、恥ずかしいんだってば。ただでさえ目立つんだから」
「そんぐらい我慢しろ。つかなんでお前があんなとこ通りかかんだよ…」

そう、偶然にも程がある。
運悪くも、静雄の喧嘩の最中にその場を通りかかった私は、ぶん投げられた標識で足に怪我を負ったわけでありまして。
直撃じゃなくて掠る程度だったから、そんなに酷い傷にはなっていないと思うのだけど、喧嘩終了後、静雄は私に気付いてあからさまに狼狽した。
そして半強制的に静雄に背負われ、今に至るわけだ。
無関係な人を巻き込むことは出来る限り避けたがっているのは知っていたけど、巻き込んでしまったものは過去に戻れるわけでもなし、どうしようもない。
まぁ巻き込んだ人が他の一般市民なら、どうなっていたかは予想できないけど。やたら多い治療費の請求とか。
でも、そんなこと、言えないか。

最初は病院に連れて行くと言われたのだけど、流石にそれは拒否した。
自分で治療できるレベルの傷なのだから、寧ろこんな状態で病院など恥ずかしすぎる。
幾らかの譲歩や交渉を繰り返した結果、私の家まで送ってくれるという事に落ち着いたのだ。

「それはえとその、申し訳ない、というか…」
「ああ、いやすまん。悪いのは俺のほうだ」
「そ、そんなのぼーっとしてた私も悪いんだから、おあいこだよ」

体の何処かしらに黄色を纏った男の子が集団でこちらを訝しそうに見てくるせいで、照れるやら恥ずかしいやら、なんだか少し、怖いような。
それは私が彼らの正体を知っているからなのだけど。
この頃はあまり見なかったのに、最近になってまた増えだしてきたみたい。
切り裂き魔とかいうのも活発みたいだし、心配だ。
何も起こらなければいいのだけど、と思っている間にも、静雄の足は止まることを知らない。
絶対静雄はそんなことなんて気にしちゃいないんだろうな。
静雄の考えてることが、私に対する負い目のせいだったとしても私で溢れてるなら、嬉しい、かもしれない。
不謹慎だけど。

一定のリズムで揺られていく内にこのリズムが心地よいものになっていくのは何故だろう。
ほら、電車とかでもそうでしょう?

「お願いだから、重かったら言ってね」
「あ?何言ってんだよ楽勝だ、こんぐらい」
「…そっか」

なんか、むず痒い。



私の目の前で揺れる、太陽の光の色によく似た静雄の髪。
首に回している腕の力を強めてぎゅうと擦り寄る。
時と場合と勢いだけで、大胆なこともできるものだな、と私は内心自分に感心した。
多分いつもの私なら、こんなこと出来るわけがない。
所々はねている静雄の髪が私の頬を擽った。

「な、なんだよいきなり」
「へへ、なんでもない」

静雄の耳が少しだけ赤みを帯びてるのを知る。
これは多分太陽の光のせいなんかじゃない、はず。
可愛い、と思っても一応口に出すのはやめておいた。
怒らせちゃったら後の祭りだよ、と、ほら目の前の踏み切りの黄と黒が私に忠告をしていた。
闇夜の色と太陽の色は混ざり合うことなく、警告するのだ。
拒絶されたくないならやめておけ。それ以上は危険だと。
踏み切りの赤のランプがちかちかと光る。
赤さえも私に危険を知らせる。でも、本当はもう遅いんだ。

何故なら、私を惹きつけて絡めとってしまうのもまた、黄と黒であって。
都会の夜によく溶けるその服に、陽の光によく似た髪に、私は悉く弱くなるのかもしれない。
だって、見惚れてたせいで怪我したんだから。なんて、情けないから言わないけどね。

「静雄、まぁその…ありがとね」
「?何がだ?運んでることについてだったら礼なんて、」
「ううん、色々と、かな?私にもよくわかんない」
「なんだそりゃ」

そして、二人して笑っていたけれど、私は内心すごく焦っていた。
何故かって、それは秘密。
言ってしまえば、この空間も終わってしまうかもしれない。
このあったかい関係さえも、終わりかねない。
それが私は、酷く怖いから。
だから、私は友人として微妙な一線を保つしかできない。
もし、この気持ちが抑えられなくなるほど、大きくなっちゃったら、その時は―――

、首、締まってる」
「え!ごご、ごめん!けしてわざとじゃ…!」
「そんな謝んなくていいって。分かってる」

いつの間にか力が入りすぎていた腕を急に離してしまったせいで、静雄の背中からずり落ちそうになった。
それを笑いながら背負いなおされて、私は恥ずかしさから顔を赤くすることしか出来ず。
静雄の手が触れている、私の足の一部がやけに熱く感じられるのはきっとただの思い違いなのだろう。

ああ、でも、耐え切れなくなる日はすぐそこまで迫ってきてる。そんな気がする。
胸が、死にそうな程苦しいから。このまま溶けて、死んじゃえるような、そんな気持ちが沸いてくるから。

家に着いたら、どうせファーストフードばかり食べている胃袋に、何か美味しいものでも作ってあげようか。
そんな大したものを作れるわけでもないし、餌付けと言えば聞こえは悪いけど。
どうやって静雄を引きとめようか、困らないかな嫌がらないかな。

そんな事ばかり考える、太陽がやたらと眩しい今日の午後。

ほんとうは『好き』って言いそうになったんだって、
ほんとうは『好き』って言いたくてたまんなかったんだって、
(だから私は貴方の後ろで口をその形に動かすばかり。)
Thanks and Love :)
Material / 十八回目の夏 & Project / COLOR×GAME
( 10.04.05 紫雫/The guilt )