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雨の日。

水の雫が池袋のコンクリート強く叩く。店の看板や街灯を伝って雫が垂れる。はそんな池袋を新品の傘を差して、女一人で歩いていた。新宿で従兄妹の家でお世話になっているがわざわざ池袋に来た理由は昨日出た漫画の新刊(池袋某本屋限定特典つき)を求めてであるが、それはの言い訳で、はある人物を探していた。その人物とは池袋の誇る自動喧嘩人形―――平和島静雄。探さなくたって目に付く彼の存在感、力は多くのものに恐れられる。そんな静雄の正真正銘の彼女であるは先ほど買った漫画を片手に池袋を練り歩く。どうせ彼の事だ、傘も差さずにそこらへんを歩いてるんだろう。の足はいつも以上に速く進んだ。暫くすると、探しに探した金髪のバーテン服の男がビルの下で煙草を吸っている姿が目に付く。肩が濡れているようだったからの予想が的中したといえる。今だこちらの存在に気づいていない静雄の元へ小走りで向かい、彼の名前を呼びかければサングラスの奥の瞳にが映った。

「あ?、何で此処にいんだよ?」
「どうせ、シズちゃんのことだから傘、差さないで出歩いてるんだろうなあ、って思って。来ちゃまずかった?」
「別にそんなわけじゃねえけど。…つかシズちゃんは止めろよ」
「なあんて、ね。本当は静雄に会いたかっただけだったりして」
「…ばかじゃねえの」
「うわ。酷いなあ。愛しの彼女に向ってばかって言った!」

が笑いながらそう言うと、静雄も小さく笑った。はそんな静雄を見て一瞬動きを止めると「シズちゃんの笑顔見れるなんて彼女の特権だね。嬉しいなあ」と嬉しそうに笑った。静雄は煙草を咥えながら顔を背ける。それは静雄の照れ隠しで、勿論もそんな彼の癖を分かっていたから、今度は静雄にはばれないように小さく笑った。と静雄の出会いは皮肉な事に静雄が大嫌いなの従兄妹おかげである。そんなせいで出会いを思い出そうとすれば喜んでいいのやら、腹立たしいのやらであまりいい出会いとはいえない。だが、それがと静雄の"出会い"のであるからも静雄もそこをああだこうだ言う気はない。だが、それとこれとは話は別での口から従兄妹が出てくるのは静雄としてはあまりいい気分ではないのも事実だった。

「あ、見てみて、この傘!新しいのなんだよ!可愛いでしょ」
「ん、ああ。似合ってる」
「!……静雄に似合ってるって言われるのと臨也兄に言われるのはやっぱ違うね」
「あ…?臨也…?」
「え、あ、ああ…この傘臨也兄に貰ったんだよ。なんか仕事で貰ったけど女物だからあげるとかなんとかで」
「…………」
「でね、傘、可愛かったからどうしても、静雄に見せたくて…んっ」

の従兄妹、折原臨也の名を口にして機嫌が悪くなった静雄に何とか機嫌を直してもらおうとは色々と言葉を添えたが、言葉の途中で静雄に遮断され、の声は静雄の口の中で溶けた。乱暴に触れる唇にはくぐもった声を発するが声は雨の音に掻き消される。の右手に掴まれた傘はの手から滑り落ち、道路に落ちた。空いた右手で静雄を服をギュっと掴めば静雄の唇がが離れた。は足りなくなった酸素を吸い込み、涙目で静雄を見上げる。静雄は「…わりぃ」と雨の音に掻き消されそうな声で小さく漏らした。

「あたしもごめん…そうだよね、静雄嫌いだもんね。無神経だったね…」
「や、そういうのじゃねえんだよ…」
「え?」
「…………」
「……もしかして、ヤキモチ妬いてくれた、の?」
「……………」
「…ねえ、静雄」
「んだよ」
「もっかい、キス、してくれる?」
「…ばかじゃねえの」

静雄は小さく笑ってそう言うとの頬へ手を伸ばした。




菫色アンブレラでキス

2010.08.04 by リリィ ( Mine )