ダイビング
C O L O R × G A M E
ギィ・・・と扉が微かな軋み音を立てた。
薄暗い図書室に人を探す。
「・・・お、まだ居た」
本棚に寄り掛かって立ち読んでいる人影に、は声を掛けた。
そんなに大きな声ではなかったけれど、静かな室内にはやけに響く。
微動だにしない影から、低い声で返事があった。
「・・・終わったか?」
「終わった、疲れた・・・」
心底疲れたようなその声を、京平は鼻で笑う。
「自業自得だ」
「分かってるって。とは言え流石にご褒美が欲しい所だなぁ・・・」
「結果出てからにしろよ」
「じゃあ疲れを癒しに。
なんか食べに行こう、お腹空き過ぎて・・・倒れる」
幼馴染の言葉に京平は大仰に溜息をついた。
別に何を望んでいるわけでもないが、こいつには女らしさの欠片も見当たらない。
本を棚に戻して、足元に置いていた鞄を肩に担いだ。
「・・・行くぞ」
「はぁい」
廊下を歩きながら、とりとめない話をする。
とりとめない・・・とは言うものの、はたから見ればただの説教かもしれない。
昔から世話が焼けるのは変わってないから、すっかり世話焼き役が板についている門田京平・現役高校2年生。
「それより点数取れたんだろうな、追試」
「多分ね」
「・・・進級できなかったら、俺は笑うぞ」
「どうぞ、思う存分」
笑いながらそう言うのは自信があるからか。
・・・一概にそうとも言えないのが、彼女の怖い所である。
「どうでもよさそうに言うなよ・・・お前の事だろうが」
「京平が心配し過ぎなんだよ。大丈夫だって、こう見えても頭いいんだから」
「・・・試験日忘れて、サボる奴がよく言う」
指摘されたは声を上げて笑う。
「まぁいいじゃない」
「よかねえよ・・・ったく」
「進級できなかったら、京平先輩かぁ」
「・・・やめろ」
げんなりとした様子で廊下の角を曲がり・・・京平は足を止めた。
が背中にぶつかる。
「いったぁ・・・」
「・・・悪いな」
「いいけど、どしたの・・」
訝しげに京平の背後から顔を出して、廊下の先を見る。
鼻の頭を擦りながら、歓声を上げた。
「わーお、綺麗・・・」
の声が廊下に吸い込まれる。
二人の前に広がるオレンジと黒のコントラスト。
京平が眩しさに目を細めていると、が背中から飛び出した。
廊下の真ん中くらいまで駆けてって、くるりとこちらを振り返る。
「どぉ?」
「・・・何がだ?」
「オレンジに染まってる?」
染まってる。
それはもうこの上なく、輝いてる。
・・・とは、言えなくて。
京平は足早にに追いつくと、その首にラリアットを食らわせた。
「さっさと行くぞ、腹減ってるんだろうが」
「喉も乾いた、オレンジジュース飲みたいなぁ・・・フレッシュ果汁100%」
夕日に照らされた廊下。
その奥には闇が広がっていて、どこに繋がっているか分からない。
光が途絶える一歩手前で、が立ち止まる。
橙色を朧に見つめて、呟いた。
「綺麗だなあ・・・この道がずっと続いていればいいのにな」
「ずっと続いてたら飽きるだろ。眩しくって敵わん」
顔を顰めて言うと、彼女はふむと首を傾げる。
小さな頭が腕に乗った。
・・・どうやら少し考え直したらしい。
「暗中模索・・・時には暗闇のスリルも必要ってことか」
「お前は・・・むやみやたらと刺激を求めるな。試験日は忘れるな」
「気を付けるってば」
京平が軽く首を絞めると、慌てて降参する。
首がもげては堪らない。
「まぁ・・・たまにだからいいのか、こういう光輝く道は」
「そういうことだ。少なくとも俺らには似合わない」
目立つのは苦手だ。
それを知ってるは、けれど詰まらなさそうに京平を見上げる。
「・・・言うなぁ。私達、青春の真っただ中だよ?」
「やめろ、わざとらしく青春を強調するな」
「・・・照れちゃって、若年寄」
「何か言ったか?」
徐に、だが容赦なく腕に力を入れる京平である。
「ぐぇ・・・絞まってる絞まってる・・・!」
「絞めてんだ。そら、帰るぞ」
「苦しいって・・・ちゃんと歩くから放して・・・!」
京平の腕から己の首を庇いつつ、は名残惜しくもオレンジの路に背を向けた。
二人の足音が次第に遠ざかり、夕暮れの廊下は静けさを取り戻す。
夕焼けROAD
光と闇の交差点。
今もこの先も、笑って、歩いて、通り過ぐ。