札幌 不動産査定
中古一戸建て
Monochrome Poison
COLOR × GAME
written by 御藤
「ただいま…戻りました」
臨也さんの自宅に着いたのは戻ってきたのは、日付も既に変わりきった深夜のことだった。まだ仕事をしているであろう臨也さんの邪魔にならないよう、ドアを開ける音を立てないように注意深く取っ手を引いた。しかし、それもただの徒労に終わる。なぜなら、臨也さんは腕組をして玄関先に既に立っていたからだ。私の帰りを待っていたようで、その表情はいつもより少し険しいものであった。どうやら外の光のお陰で臨也さんの姿が確認出来ていたらしく、ドアを閉めると全く何も見えない。闇の中に葬られたようだった。
「おかえり、随分と遅かったみたいだけど。それに、随分と機嫌がいいみたいだねえ、いい事でもあったわけ?」
「…すみません」
「どこに行ってたのか、聞いてもいいよね」
「高校の時の…友人の家へ…、用事があったもの、ですから」
「へえ」
正直、臨也さんの顔が、見れなかった。声色からして臨也さんの心中は穏やかじゃないことは分かっている。…としたらどうするか。できるだけ、臨也さんにとって不快な要素を取り除くことだ。原因は…私にある。
身じろぎ一つ出来ないまま時間ばかりが過ぎる。ただ臨也さんの視線の先には俯いている私しかいないはずである。何度目か唾を飲み込んだ時、臨也さんはため息混じりに、靴を脱げと言った。言われるがまま、靴を脱ぐ。フローリング仕様の廊下に一歩踏み出すと、いきなり腕を引かれた。電気も付けず、真っ暗な中、私の背中がいきついた先は壁だった。
「同窓生って言っても、ソイツさあ、男なんでしょ?俺が知らないとでも思った?男女が二人マンションの一室でこんな時間までナニしてたんだか、まあ…見てなくても想像はつくもんだよねえ、。それに…今日だけじゃないよね、ここ数日間出入りはあったハズだけど?」
「…臨也…さん、が思っているようなことは…して…ないです」
臨也さんは私の耳元で嘲笑った。いつものように人を見下したような笑いだった。普通の人なら快く思わないのだろうが、今だけは酷く安心していた。いつもどおりの臨也さんだと安心したのも束の間、いきなり肩を強く掴まれる。平和島静雄と比べたら華奢な身体のどこからそんな力が出てくるのだろうと、私は臨也さんの表情を想像することから逃避していた。
「じゃあさあ、ナニしてたかくらいは言えるよね?駄目だよ、。は俺のもんだって言ったよね、何してたか言えないわけ…ないよね?」
「…」
数ヶ月前、臨也さんは私に少しばかり他の人間よりも勝った愛をくれた。私もそれに頷き、ずっと今まで通り臨也さんに従順でいることを誓った。…それ以前も含め、私は臨也さんに刃向かったり、隠し事なんてなかった。何でも命令されれば首を縦に振ったし、臨也さんに求められるがまま、私は生きてきたのである。ただ、今回ばかりは理由を聞かれても素直に言えない…理由があった。
「痛い、です」
「じゃあ言いなよ、そんなに俺に後ろめたいことしてたわけ?大丈夫だよ、驚かないからさ。ま、も所詮、この世に生きる女の一人だったってわけでしょ」
「…!違います、私は、臨也さんだけ…。」
グッと更に力を込められた肩が悲鳴を上げる。しかしそれよりも、臨也さんが私を落胆の表情で見ているのが耐えられなかった。廊下は真っ暗で、見えないけれど、私は分かる。
「あっそ、」
短く呟かれたそれに私は酷く絶望した。このままじゃ私に興味を持ってくれなくなる。私は見捨てられてしまうのかと、そう危惧した。…このままじゃ、計画も元も子も無くなってしまう。私はバッグから布に包まれているそれを取り出すと、臨也さんの私の肩を掴んでいる手とは反対の手のひらにそれを押し付けた。
「何これ」
「…開けて、みてくれませんか」
真っ暗でなにも見えない中、臨也さんが包を開く音だけがしていた。肩から手は離されたけれど、まだジンジンと痛む。でもそんなことは関係なかった。ただ、臨也さんに真実を伝えなければならないという、焦燥感だけが私を急かすのであった。
「…指輪?」
「…はい。彼、趣味でそういうの作るのが趣味で…。
臨也さんの誕生日、もう少しですから、何かプレゼントを…と思ったのですが。毎年何かしらあげているし、何かプレゼントとなるようなものを買ったとしても…元は臨也さんから頂いた給料ですから…、何か違うと思って…。何か作ってあげようと思っても、私にそんな技術は無いですし…。」
そこまで言って私は一つ呼吸を置く。私は元から長く話すのが苦手だった。過去にあったことが影響しているのは分かっていた。臨也さんのお陰で、大分自分の言いたいことを言えるようになったけれど、未だ長く話すのは苦手だ。
「そんな時、偶然街中で、出会ったのが彼で…。事情を話したら…彼の家で指輪を作ることになって…。今日、浮かれていたのも、それが完成したからで…。
彼、本当にそういう人じゃないですし…、それに…奥さんと子供もいますし…。私は、ただ、臨也さんに喜んで、欲しくて」
私は泣くのだろうかと自問自答した。しかし、其れらしきものは目からこぼれ落ちてこなかった。黙って私の話を聞いている臨也さんの洋服を、手探りで掴む。手触りのいい、生地が私の触感を支配した。
手探りで見つけた距離感に緊張をしてしまう。
「本当、は…ちゃんとラッピングして、メッセージカードも添えて、…当日に渡すつもりだったのですけど…。本当にごめんなさい、臨也さんに誤解されるくらいなら…こんなことしなければ良かったです…。いらなかったら…捨てても構いませんから…」
言い切った途端、目が暗闇に慣れかけていたのに、更に視界が黒へと変わる。臨也さんに抱きすくめられているのだと自覚したのは、臨也さんの胸板に鼻をぶつけた事によって鼻が痛みを覚えてきた頃であった。混乱している頭を整理しようと、脳が働きかけた瞬間、私の鼓膜は臨也さんの微かな声を捉える。
「…ごめん。俺さあ、どうもちゃんのことになると周りが見えなくなるみたいだね。情報の一つ二つ、漏らしちゃうなんて、本当に俺らしくない」
「…ごめんなさい」
「何を謝る必要があるんだい?」
「…ごめんなさい」
「…」
私の頭が臨也さんの手によって撫ぜられる。臨也さんの肩に顔を埋め、犬のように頬を摺り寄せた。背中に回っている臨也さんの手の中には、私が作った指輪が押し込められている。臨也さんの深い呼吸が一、二度聞こえた頃だろうか。私は臨也さんに向かって言う。
「明るいところで、見てもらえませんか。私がデザインしたんです、それ」
私から身を離し、電気を付けに行く臨也さん。目を瞑り、電気の光を待っていると、唇にほのかな暖かさと、柔らかさが当てられた。それが臨也さんの唇だというのはもう、何度も体験しているから一瞬で把握出来た。何故だか初々しいような気恥かしさが私の頬を紅く染める。
「、
愛してる」
何度も囁かれてチープに思えるような単語にさえ喜びを覚えてしまう。電気が付けられ、私の眼球の奥はいきなりの光に眩み、何故だか瞳は霞んでいて、視界も何も無かった。ただ、臨也さんが私に近づいてきて、手を伸ばす影だけが私の捉えることの出来る唯一のものだった。数秒後には再び、唇の神経が温度を感知したことを脳に告げた。臨也さんが私の頬に添える指には、固く、臨也さんの体温を少し引いた其れが嵌っていた。
...end