C O L O R  ×  G A M E

左手の人差し指が通常ではあり得ない方向を示したので、さすがのも堪えきれず悲鳴を上げた。

「痛い!新羅!指!変な方向いてるけど、本当これ正しい治療法!?」
「あ、ごめん。考え事してた」

なんてひどい闇医者だ。
患者を目の前にして、考え事とは。
でもまあ高校の時からの付き合いに免じて、苦情を申し立てるのは勘弁しといてやろう・・・などと寛大な気持ちで我慢していたら、とんでもない返り討ちを、今度は右膝に食らった。

「新羅、痛いってば!消毒液、つゆだくになってるけど、そこまで殺菌しなきゃいけないレベル!?」

殺菌と言うより、滅菌に近い。
痛みのあまり思わず膝を跳ね上げたら、それが図らずも、患部を覗きこんでいた新羅の額にヒットする。

「ぐはっ・・・!ちょっと、治療中に突然何するのさ!痛いじゃないか!」
「それは私の台詞だって!」
「え?ああ、ごめん。ぼんやりしてた」

それが治療中の医者の態度か!
罵倒しそうになるのを全力で飲みこみ、代わりに深く溜息を吐き出す。

「何?なんか悩み事でもあるの?」
「うん、セルティはどうしてあんなにかわいいんだろうって」
「・・・そんなことだろうと思ったよ」

それ、他の患者の前ではやるなよ。
特に静雄の前でやったら、頭握りつぶされるよ。
そう忠告したら、新羅は淡々と、静雄はこんなことで悲鳴上げないって、と答えた。
そういう問題じゃなくて、治療がおなざりになってたら、ブチ切れると思うんだけど・・・と言うのはもう面倒くさいから心の中で伝えるだけにしておく。
どうせ何を言っても、今は『セルティがどうしてあんなにかわいいのか』を考えることに意識を集中させていて、耳に入らないだろうから。

患者を全く思いやらない治療が終わって、はやれやれと伸びをする。
新羅はテーブルに散らばったハサミやら包帯やら、その他怪しげな道具を片づけつつも、まだうわの空と言った感じだ。

(恋煩いって、すごいな)

本人は幸せなんだろうけど、もう少しこちらにも気を配って欲しい。

「新羅は難しいコを好きになったね」

ぽつんと呟いてみたら、セルティに関わる話題だったせいか、新羅はにこっと笑って反応を示した。

「セルティのあれは照れ隠しだよ。彼女は難しいどころかすっごく分かりやすいよ」
「そういう難しさじゃなくてね・・・」
「なんだい?セルティが人じゃないってことかい?全然気にしてないけど」
「新羅は気にしてなくても、セルティが気にしてるでしょ?」
「そうなんだよねぇ。確かにその点は悩みどころだ。
 俺は気にしてないってこと、どうしたら伝わるかな・・・」

自問自答の域だったので、は答えない。
本当に新羅の頭の中は、セルティのことで一杯だ。

*

「・・・っていうことがあってね」

包帯でぐるぐる巻きにされた手を夜空にかざして、は先ほどの出来事を楽しそうに話した。
彼女の横で、ベンチに座った静雄は呆れるを通り越し、若干の怒りを覚えつつ、暗い空にひらひらと浮かぶ白い包帯をしかめ面で睨みつける。

「お前・・・そんなひでえ仕打ち受けて、どうして笑ってられんだ?」
「仕打ちじゃなくて、治療だって。まあ痛かったけど、タダでやってくれたし」

こいつの怒りのツボは、俺には一生理解できない。
静雄の怒りが伝わったのか、はどうどうとばかりに、怪我をしていない方の手で静雄の頭をぽんっと撫でた。
金色の髪がふわふわと指に絡まる。

「新羅のしたことにご立腹のようだけど、静雄くん」
「あ?何だ?」
「君はないの?」

何が?と聞き返してみれば、髪を撫でていた手で、そのまま静雄の頭を引き寄せる。
の笑顔が間近に迫る。


「誰かのことで頭がいっぱいになって、手元がおろそかになること」


満月の光をうけ、の瞳が闇に艶めく。
ポロリ、と静雄の手から吸いかけの煙草が落ちた。

「あっつ・・・!静雄!タバコ!」

の悲鳴で我に返る静雄。
煙草の灰が降りかかったらしいは、自らの脛をバシバシと叩いている。

「大丈夫か・・・!?」
「ううっ、平気、ピリっと痛かっただけ・・・」

痛みがなくなると、は仕返しの意味もこめて、えいやと静雄の体に寄り掛かった。

「静雄」
「・・・何だ」

聞き返しながらも、が何を言うかは分かっていた。

「君も、新羅のことどうこう言えないね」
「ほっとけ。あと・・・すまん」

肩にのせられたの頭を引き寄せる。
気分を良くした彼女は、嬉しそうに笑う。

「ぜーんぜん気にしないよ?」

私のことで、頭の中いっぱいになっちゃったんだもんね。
そうからかったら、いつもだったらきっとデコピンが飛んでくるのだけど、今日は決まり悪げに、乱暴に頭を撫でてくれた。



 飽和した月を抱いている

  キミを思う気持ちが、溢れてやまない