DRRR!! COLOR × GAME
written by 高梨 飛鳥
早朝、夜明け前。空がゆっくり白んでくる頃、二人の男女がアスファルトの歩道を歩いていく。


「さみぃ」
「うん」
「今、何時?」
「えーっと、五時前」


二十四時間のあいだで最も寒くなるこの時間帯、吐く息まで微かに白い。

金髪の男が寒さにイライラしたのか、舌打ちしながらポケットに手を突っ込んだ。

取り出したのはくたびれた煙草の箱で、一本抜いて火を付ける。


「朝の池袋っていいよね。都会じゃないみたいで」
「人が腐るほどいるのが都会だろ」
「私、人混み嫌いだから」
「東京住んでんのに矛盾してる」


もっともな意見と共に、煙を吐き出した。


「んー…お腹空いた」
「無視すんな」
「デニーズ行こうよ…ってか静雄、煙たい」
「なら俺より前歩けよ」
「消そうとはしないの?」
「あのなぁ…」


文句を言われるより先に前に出た彼女は、縁石に軽く乗る。

ハァ、と溜め息にも似た息を吐くと、白く染まる空気。


「ただの息ならいい」
「は?」
「でも静雄の吐く息は、害が多い」
「っせぇな」
「まぁ… 都会ってどこも煙たいけど」


そこで眉をひそめた。数歩先を歩む彼女の後ろ姿を見つめる。


「人だかりが?」
「んーん、街全体がそんな感じ。よどんでるっていうか、排気ガスっていうか」
「排気ガス?」
「そう。モヤモヤしてる」


まだ少し薄暗い中、街灯の白い光が彼女の横顔を浮かび上がらせる。


「コンクリートジャングルっていうの?街が…灰色のベールを纏ってる」


振り返った彼女の表情は笑っているが、嘲笑いに近い。

しかし彼女の言葉とは裏腹に、視界の端の広告塔は確かに鮮やかな色を放っている。


「あ、でも」


突然声を上げた彼女の腕が、こちらへスッと伸びた。細い指に絡まる、派手な金髪。


「静雄の金色の髪だけは、東京に居ても映えて見えるんだ」


ふいに、じわりじわりと朝日が昇ってくる。


「きっと、どこにいても見つけられる気がする」


地球が回ると同時に、その金色は一層輝いた。


「うん、綺麗。静雄、すごく綺麗だよ」
「…別に嬉しくないけど」
「まったまたぁ。照れちゃって、かわ…」
「黙れ」
「はいはい」


慣れた様子で軽くいなすと、彼女は小さく微笑む。


「俺よりお前のほうが…」
「ん?」
「いや、なんでも」


首を傾げられたが、とりあえず無視して煙草を排水溝に投げ捨てた。たった一本では、気休めにもならない。


「朝飯、行くぞ」
「どこに?」
「…デニーズ?」
「えっ、ホント?」
「あそこ煙草吸えたっけ」


たまには奢ってやるのもいいだろう、と財布の中身を思い出す。

今はなぜだか洋食のモーニングセットが食べたい。

カラフルな料理が彩るプレートの上。キツネ色の食パン、白と黄色の目玉焼き、緑と赤のサラダ。

締めは焦げ茶のコーヒーを飲みたい。意味もなく、そんな気分だ。


「ほら、降りろ。どうせよろけてこけるのがオチだ」
「失礼な…」


グイッと彼女の腕を引っ張ると、縁石から落ちてこっちへ倒れ込んできた。


「あ、悪い」
「んー、大丈夫」


体質で力が強すぎたかと焦ったが、彼女は平然とした顔でそのまま自分の腕に身を寄せる。


「なんだよ」
「なあんでも」


だがそれを振り払ってしまうのも悪い気がした。

というか、そもそも振り払う気なんて起こらなくて、そんな自分に妙にくすぐったくなって、思わず空を見上げる。


「なぁ」
「なに」
「…さみぃ」
「もうすぐあったかくなってくるよ」


幾つもの灰色した四角い積み木が、今にも崩れてきそうな夜明け。

その狭間に響き渡る、重なった二つの笑い声を薄暗い空が吸い込んだ。



灰塵クライシス
見つけたのは瓦礫に埋もれた、小さく輝く存在。


*


[灰塵:滅び尽きる物。価値のない、とるにたらぬ物。
クライシス:危機。恐慌。]

...end

DRRR!!