| C O L O R × G A M E |
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籠の中に、山盛りのさくらんぼ。まるでハートの形が山盛りのようだ、とか、 どれも赤く宝石のようだ、とか少年は思いながらそれを見る。 「あ、駄目ですよ食べちゃ」 「こんなにあんのに?」 「ちゃんと分量どおりに計ってるんです。食べられたら困ります!」 「えー、俺腹減ってるんですけどぉ、さん」 「冷蔵庫の中にちょっと余ったのがあるから、そっち食べてください」 ぴっと指を指して示された冷蔵庫の中をあけてみれば、確かにそこには同じように真っ赤に熟れたさくらんぼ。 しかしよく見れば少し形が歪だったり、傷みが始まっていたりするものがちらほら。 「…え、俺なに処理班?」 「は?」 ぽつりと呟いたつもりだったがその声は聞こえていたのだろう、 粉ふるいを片手に持っていた少女はムッとしたような表情で振り返り少年を見つめる。 そうすればようやっと目が合うことのなかった少女と視線がふんわりとかち合う。 しかし少女の目、というか眉ははムッとした雰囲気を残していて、少年は苦笑する。 「だーってさ、残り物って感じでさぁ、 俺が来たときからずーっとなんか作ってるし? 昼飯はって聞いてもまだですの一点張りだし。 相手にされて無いって感じで俺様ちょーっとブロークンハート? むしろ粉砕爆砕木っ端微塵?って感じ?」 「お昼、ご飯はもうちょっと待ってください…」 「なんで? さっきもそれ聞いたときそうやって答えてくれたけどなんで? 俺すんげー気になるんだけどっていうか、なんでキッチンには入れてくれないんだ? 冷蔵庫のおかげでお前がなにやってるのかさっぱり皆目検討もつかないし? っていうかもうすぐ14時だし? このままディナーコースタイムに突入とかそんなオチ? ワイン片手に牛フィレステーキとか食っちゃう? いやいやまさかそんな豪華な夕飯が出てくるわけないか」 腹が減っては戦は出来ぬ、という言葉は名言だと少女はぼんやり思いながら、 ぐだぐだ話し続ける少年がなんだかんだ言いながらさくらんぼを手に取り口に含む姿に笑いがこみ上げる。 確かに待たせすぎているな、というのは自分でも理解していたし、申し訳なく思っていたタイミングでもある。 そう考えると、さてどうするかな、とネタバラしをしてしまってもいいのだろうか、と考えもする。 きっと、少年は気づいていないし考えもついていないだろうし覚えても居ないのだろう。 今日という日がなんなのか。 「紀田くん」 「大体さぁ、お前が料理に没頭しだしてると俺だって寂しいわけよ。 そりゃ、お前は時々振り返って俺の様子確認してくれるけど」 「紀田くん」 「それでもさ、スキンシップとか恋人同士の逢瀬ってもん?楽しみたいじゃん? 俺だって男の子、甘い雰囲気と可愛い彼女のエプロン姿にときめくんだせ? っていうか、女の子のエプロン姿にときめかないヤツは駄目だ!! 最たる萌えを知らなさ過ぎる!! いやいや、だがそれ以上にもっと萌えるものといえば…」 「きーだーくんっ!」 だめだ、このまま喋らせていたらそれこそ本当に終わらない。 少女は焦ったかのように大きな声を張り上げ、口を閉じきょとんと自分を見ている少年に苦笑する。 幸い、彼の言う山盛りのさくらんぼはコンポートにして綺麗に並べて、 パイ生地シートで綺麗にパイの形を形成してオーブンの中。 あとは今手にしている粉ふるいで粉砂糖を焼きあがったそれに振り掛ければ終わりだ。 夕飯の昼食の仕度だって本当は整っているし、夕飯だって整っている。 本当はきちんと時間を計ってやり遂げたかったのに、本人が予定していた時間より早く来たのが悪い。 と、責任転嫁するのは心の中だけにしておいて、少女はにっこりと笑う。 いいや、もう、このままお昼の分も夜の分も一緒に出してしまえ。 それから食べきれないって宣言するまで延々と出し続けてやろう。 きっと彼のことだ、無理、無理、と笑いながらもきっと全部を平らげるのだろう。 今だっていまだにさくらんぼを手にばくばくと食べ続けながら腹減ったー腹減ったーと繰り返す。 せっかくの赤くきれいな果実がもう半分は彼の胃袋の中とかそんな状態だ。 「本当に、紀田くんは今日が何の日か分かって無いんですね」 「は? 今日、は6月19日。 素敵にウエルカムサタデーホリデー。今日が何の日かって……」 ようやく気づいたのか、勘がいい癖して時々こうしてボケになるのはどうしてだろうか。 いや、バカなのは前からなんとなく察知はしていたけれどまさかここまでだなんて誰が思うの誰も思うまい。 オーブンが小気味い良い音を立てたような気がする。甘い香りがキッチンからリビングに広がるように伝わってくる。 それでようやく、自分が作っていたものを理解してくれたのか、少年の身体がするりと少女の身体の脇を通り抜け キッチンへとふらふらと入り込んでいく。 「今日っ、て…あれ、か……? 俺の、誕生日……?」 「それ以外、わたしがお菓子を作る理由ってあるんでしょうか?」 「いや、さんのことですからいきなり恩着せがましく高級なさくらんぼを押し付けられて、 腐らせるのも勿体無いから作ったのよ、別にアンタの為じゃないんだからねっ!的なノリ、かと」 「紀田くんの中でわたしがどれだけ脚色された人間性なのかがよく分かりました。 それならそういうことにでもしまして、竜ヶ峰くんや園原さんに差し上げることにします。 紀田くんのぶんは無し、ということでかまいませんよね?」 「ちょっ!? た、タンマ!!それはタンマだっ!! 俺は確かにお前にツンデレ要素があると示唆したけれどだからと言っていらないとは言っていない!! むしろほしい、むしろくれ、でないと俺が死ぬ。 いやもうむしろ今、幸せで死ねるかも知んないけど、まだ死にたくない! だから、それください、お願いしますさんっ!!」 怒涛にも似たその喋りにぽかん、と呆けた表情をしてしまうがすぐに気を取り直す。 いくら自分だってそこまで酷く無いつもりだ、彼の頼み込むといった姿勢にはぁ、とため息を落とし、笑う。 仕方が無いですねぇ、紀田くんは。 その口癖をぽつりと漏らしてみれば少年の下げられた頭は上げられ、少女を嬉しそうに見つめる。 それから急かされるようにオーブンのドアを開け、いい感じに焼き色のついたチェリーパイを取り出し、 粉ふるいに入れておいた粉砂糖をきれいに振りかけて、切り分けていく。 その隙に、勝手知ったるなんとやらで冷蔵庫や常温で保存しておいた昼食と夕食用の食材が並べられていく。 もうこのキッチンのどこになにがあるのか、なんて彼はもうすでに熟知しているのだろう。 切り分けたパイ生地の間から真っ赤なさくらんぼが顔を覗かせる。 きらきら、きらきら、赤い宝石のようなそれに思わず笑みがこぼれる。 後ろではこの出来事がそんなに嬉しいのか、少年、紀田正臣共通の友人に電話までしている。 調子に乗らせてしまっているのではないだろうか、と後からきっと質問されるだろうな、と思いながらも、 少女、はようやっと出来上がったそのチェリーパイに満面の笑みをさらに浮かべる。 すっと背後から手が伸びてきたかと思えばその指先がころりと転げ落ちたさくらんぼをひとつ摘み上げ、口に運ばれていく。 見下ろされる視線だけで、美味しいと言ってくれていることがほんのりと伝わってくる。 さらにもうひとつ、指先が転げていたさくらんぼを捕まえ、どうするのだろう、とそれを見ていたら、 軽く、はんだようにくわえたそれが、ゆっくりと近づいてきた。 数秒の間。 互いの距離だからこそ聞こえた小さなささやき。 それらがすべて、のなかにある疲労感だとか、不安を吹き飛ばしてくれている。 だからこそ、自然とこの言葉も溢れたのだろう。 「お誕生日、おめでとうございます。紀田くん!」 Cherish the Cherry さくらんぼってハートの形に似てるから、お前の気持ちが沢山詰まってるみたいだな。なんて。 (決まっているでしょう?貴方が大切だから貴方を想うから心をこめたの) |
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