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むかし むかし あるところに 水色の めをした 白い うさぎが いました |
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「昔々あるところに、水色の目をした白いうさぎがいました。」 「………突然、何ですか。」 静かだった部屋に音が広がったと思ったら、彼の綺麗な声。 まるで絵本の世界が始まりました、とでも言うかのように憎らしいくらいの語り口。 そのいかにもな雰囲気を思わせるのが上手い折原臨也という人間は、 が小さな声で反抗するように問いかけると、一瞬で絵本の空気を消してこちらに笑いかけてきた。 「ちょっと前に、絵本を読む機会があったんだけどさ、いや童話っていうのは面白いよね。 一見すれば子供向けで易しく書かれてるだとか、絵がいっぱいだとか、すごく柔らかなイメージってあると思うけど、 でも、そこに隠れてるのは残酷すぎる『世界の本質』なんだよねぇ。」 彼は、子供のように笑う。 面白くて仕方がないと表情に表しながら、言っていることは頭の痛くなることばかり。 「『本当は怖い童話』とか流行った時期があったじゃないか。そういう感じ。 別に有名な童話とかでなくても、絵本ってのはいろいろ残酷なんだよ。 悪いことをしたら必ず罰を受ける。願いを叶えるためには何かを犠牲にしなくてはならない。 正直者は報われて、うそつきは報われない。悪いやつはいなくならなくちゃいけない。 そういったことの本当の内容は、絵にするのだって嫌悪するくらい凄惨なシーンのはずだ。 それに、子供の頃から知らない内に倫理観を叩き込まれるのが本当にいいことなのか。 小さな頃からそうやって考えるべきことがあるだなんて、それだって残酷すぎるよねぇ?」 確かに幼い頃に読んだ物語を今、振り返れば、いろいろと考えるべきことはあるのだろうと思う。 けれどは、臨也が言うからこそそれを否定したかった。 「別に……、子供の頃なんて、素直に楽しんでそれで終わり…で十分だと思いますけど…。」 「うん、そうだね。こんなこと、もう子供じゃないから考えちゃうことだよね。」 「………。」 それでも彼は自分の考えを口にするから、は臨也こそ絵本みたいな存在だと思った。 見た目は無邪気に笑い、自分の好きなもの、興味のあるものに純粋なだけ。 けれどその中身……本質とも言うべきものは恐らく絵本の残酷みたいなもの。 どうしても子供じゃいられないから、も臨也のことを素直に受け入れられない。 彼の言葉の、行動の、考えの、裏に隠された何かを探ってしまう。 それでも彼の会話に付き合うのは、どうしてなんだろうかと、疑問に思うの耳に、臨也の声は続けて響いてくる。 「ああ、それでさっきの、白いうさぎのお話だけどね。俺はその絵本が気に入ったんだ。」 「そうですか…。」 絵本に対して瞳を爛々と輝かせるような興味を見せる臨也と、さして興味のない返事をする。 もし臨也が自分たちのことをごく客観的に見れていたなら、その鮮やか過ぎる対比に笑みを浮かべたことだろう。 彼は聞かれる前から絵本の中身を話し始めた。 「そのお話は、さっき言った白いうさぎが主人公で、ずーっとその白うさぎのことが書かれてるだけ。 うさぎは普通、赤い目をしてるだろう? だからその白うさぎも赤い目になりたかった。 その方法を探し回ってたら愚かにも人に捕まってさ。人にすれば蒼瞳のうさぎなんて珍しいから、 見世物にされて………ってこの辺はどうでもいいんだ。 うさぎは孤独で、それでも走り回って、泣いて、悲しくなって、そんなうさぎの一生が続くだけ。」 童話としてはありきたりなもんだ、と困ったように付け加える臨也。 それならば、この白うさぎの話が彼の興味を引いたのは、一体どこなのだろう。 「あ、ちなみにタイトルは『みずいろうさぎ』っていうんだ。見かけたら読んでみてよ。」 「……そもそも絵本なんて、もう見ないと思います。」 消えてしまいそうなほど小さな声で答える。 臨也に届いていたのか、届いていないのか、わからないまま彼は唐突に疑問を呈した。 「それにしても、水色、って表現は不思議だねぇ…。」 「……?」 首を傾げるような動きで、彼が何を不思議に思っているのかがわからないと伝える。 すると、臨也は「水色って聞いて思い浮かべるのはどんな色?」と問うてきた。 だからは「薄い青色です」と答えた。 …臨也はそれが不思議でならないと言う。 「一体いつから水の色は青になったのかな? 水に色なんてないじゃないか。 水は透明で無色。どこにも水色なんてものは存在しない。 それなのに人は、青色を薄めた色味を『水色』と表現する。……面白いものだねぇ。」 水色。クレヨンでも絵の具でも、もう水色というモノは存在する。 だから当たり前に受け止めてしまっている色だ。 通常、青系の色は寒色に分類されるけれど、水色はその色の薄さが柔らかさを演出しているのか、好かれやすい。 あるいは『水』色だからこそ、大らかでどこか優しい水、というイメージがあるのかもしれない。 でも、水色と呼ばれるようになった理由なんて知らない。 だって、あの薄くて綺麗な色は、水色だもの。 「水色っていう表現は平安時代くらいからあったみたいだよ。昔から水=青みたいなイメージがあったようだね。 でも、古典の色で言うとさ、今で言う水色みたいな色は『水浅葱』って言ってたそうだよ。」 「……折原さんは、本当に暇な人ですね。」 そんなこと、一々調べるなんて。 臨也の興味がある限り、図書館は消えなくてすみそうな気がする。 はぼんやりとそんなことを考えながら、目を伏せて、何かから逃れるように顔を背けた。 「色の前に『水』っていう言葉がつくと、その色を薄めた、っていう意味になるんだって。 つまり『水浅葱』だったら浅葱色を水で薄めたってことになる。 まあ昔は染め物で色を使ってたから、そういうところから来てるんだろうねぇ。」 今のは余談だった、と言いながら臨也は、彼にとっての本題を口にした。 「水の色って、ちゃんみたいな色だと俺は思ってるよ。」 「……それって、無色で寂しい存在だってことですか。」 「違う違う。ほら、水って無色透明だけど、裏を返せば周囲の色を何でも写すから何色にもなれるでしょ。 そういうところ、君がたくさんの人に愛されてる様子にぴったりだと思って。」 誰とでも仲良くなれる。それは誰の色に合わせることもできるということ。 それがたとえ首無しライダーと言われる都市伝説であろうと、 そんな都市伝説を一途過ぎるほどに愛する闇医者であろうと、 平気で道路標識や街灯を引っこ抜ける怪力のバーテンダーであろうと、 カタコトの日本語をしゃべる、喧嘩を仲裁できる心優しきロシア人であろうと、 ナンパをするのが大好きな軽い高校生であろうと、 非日常に憧れる危うい高校生であろうと、 愛することのできない依存する高校生であろうと。 …目の前にいる、狂気と隣り合わせの情報屋であろうと。 「それと、水が綺麗でいるためには何とも混ざりあっちゃいけないのに、 誰かと一緒じゃないと色がないから、一緒にいることを求めてしまうところとか、ね。」 「………やっぱり。」 私が孤独で、どうしようもないほどに悲しい存在だって言ってるじゃないですか。 誰かに愛されても、愛を返そうとすると壊れてしまう。 は、そんな存在だった。 確かに自分は、『水色』だ。 そんな自嘲じみた思いを胸に、彼女は瞳から『水色』を落とす。 「さっきの絵本の話、覚えてる?」 「……はい。」 力ない声で答えれば、臨也は微笑みを浮かべての顔をのぞきこんだ。 「あの絵本が気に入ったのは、白うさぎがちゃんみたいだって思ったからなんだ。」 「………。」 「うさぎの目が水色になったのは、いつも悲しくて泣いていたからかもしれない…って絵本にはある。 君の目はとても綺麗な琥珀色をしているけれど、本当は、泣きたくなるくらい透き通った水色なんじゃないかい?」 音が…。 彼の言葉、声、音、が…水が沁み込んでくるみたいに聞こえる。 「……君の涙は、水色だね。」 「………。」 心の中ではいつも泣いていても、水色だから気付いてもらえない。 そんな涙に見える。 臨也にそう言われて、目元に彼の指先を感じて、ああ、まだ自分は涙を流しているのだと、は気付く。 見上げれば優しく、けれどどこか歪んだ、微笑み。 「泣きたい時はいつだって飛び込んでくれていいよ。俺は君を受け止める。 俺のことを殺したいくらい愛してしまって刃を向けられたらさすがに刃からは逃げるけど、」 「……。」 「でも、俺は刃は避けても、ちゃんは受け止める。君がどんな気持ちを抱いている時でも受け入れよう。 君が幸せな時も、絶望してる時も、壊れてしまっても、俺は君のことを見ていたいよ。」 「………。」 「だってさ、俺は、」 君の、恋人だから 悲しい出来事があって、自分が涙を見せられる相手は一人しかいなかった。 それが折原臨也という人だったなんて、きっと自分にだって言えない。 でも、は気付いたら彼に会いに来て、彼の腕の中で泣いてしまった。 静かに、静かに…。 臨也は面白がって見ていたかもしれない。 泣いている自分の心境を思いながら、それでもどんな反応をするのか知りたくて。 あんな絵本の話だとか、色の話だとかをしたのかもしれない。 それでもよかった。 には、涙を流せる居場所が欲しかったのだから。 だけど本当は、彼のような危うい存在にしかすがれなかった自分が、少しだけ悔しい。 「……折原さんなんて、だいきらい…。」 「俺はちゃんのこと、大好きだよ。」 「そういうところが、だいきらい…。」 どんなに嫌いだと伝えても、彼は笑う。 まるでそれが愛の告白だとでも言うかのように。 彼女の気持ちをわかっているかのように…。 不意に、臨也が声を上げた。 「あ、そうだ。絵本に出てきたうさぎの結末、知りたくない?」 「………。」 「あの絵本はね、最後、こんな風に締めくくられてるんだよ。」 笑った臨也は優しい語り口で、読み聞かせをする図書館員のように、うさぎの結末を歌い上げた。 「『けれども、うさぎはもう寂しくありませんでした。なぜなら』………」 耳元で、最後の一文が、囁かれた。 「彼女には、赤い瞳をした黒いうさぎがいるのだから」 それは、絶対に絵本の通りの文章ではなかったと思う。 白いうさぎが『彼女』だったなんて、今まで言われてなかった。 でも、だからこそ、臨也が伝えたいことがわかってしまったは、 先ほどよりずっと切ない表情をして、心震えるほどの声で、つぶやいた。 「臨也さんなんて、だいきらい……。」 涙を流して晴れた視界に映ったのは、にとっての、赤い瞳をした黒いうさぎ。 誰かにとっては憎くて憎くて殺したいくらいの存在かもしれない。 違う誰かにとっては、消えてなくなってほしい存在かもしれない。 でも、でも、には、きっと……… その手に触れられるくらいの距離にいるべき存在。 あ さ ぎ 涙 2010/07/03 aoi kagayaki デュラララ!!夢企画「COLOR × GAME」提出作品 「あさぎ涙」(折原臨也) 葵 輝希 / V.I.o.Lin 主催・お題作成の鈴星さま、企画に関わった全ての方、読んでくださる方。 皆様に感謝を込めて。ありがとうございました! ※お話の中で出てきた『みずいろうさぎ』は自作ですので、実際にこのような話はありません。 |
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愛しい人の前で見せる涙は透き通るように美しいから 人はそれを あさぎ涙 と言うのだろう |