C O L O R  ×  G A M E

「そうしたら正臣が――」
「何それおかしいって」



けらけらと笑いながら、学校帰りの少年少女が並んで歩道橋の上を歩いていく。どこにでも見かけられる高校生カップルの一組。
一つ特徴を挙げられるとすれば、その関係はあまりにもほのぼのとしていて、あまりにも健全であるという事だろうか。



「もうほんとっ……紀田君おかしっ……あはははッ」
「こっちはとんだ迷惑だよー……」



は必死に笑いを堪えながら、しかし遂には限界がきて盛大に笑い出し、帝人はそのときの事を思い出してげんなりしつつ苦笑した。
いつもの帰り道、昨日の正臣の奇行の話をしながら二人肩を並べて帰路に立っている。



「お陰でまた正臣のナンパが始ま――ッ」



帝人の言葉がふいに中途半端に途切れた。それと前後するように馬の嘶きのような妙な音が周辺に響き渡る。
が驚いて眼を見開いていると、しかし帝人はそれに構わず瞬時に周囲に視線を送り、探るように様々な方向へと眼を向けていた。
全神経を尖らせるかのように、右、左、前、後ろ、上、下、あらゆる方向へと視線と身体を動かしていく。



「こっち!」
「え、帝人!?」



叫ぶように帝人はそう言って、の腕をぐいっと引っ張って強制的に走り出させる。
突然の事に足がもつれるが、そんな事はお構い無しにぐいぐいと帝人が引っ張っていくので、は必死に食らいつくように足を動かす。
そうしてビルが開けて夕焼けの臨めるところまで来ると、それと同時に歩道橋の真下からヘルメットだけに色がついている漆黒のバイクが走り抜けた。通常のエンジン音では無く、本当に馬が啼いているのではないかと思わせるような奇妙な音を立てて。



「あ、あれ! 都市伝説!? 首無しライダー!?」
「セルティさん……」
「え……?」



聞き慣れない言葉を吐いた事に驚いて横に並ぶ顔を覗くと、そこには好奇に満ちた恍惚の表情を浮かべた帝人。それは未だかつて見た事がない程に怪しい笑みに覆われている。いつもの温和なものでは無く、捕食者の猟奇的な目つき。
掴まれたままの腕が、更に痛いくらいにぎゅっと強く掴まれる。
付き合い始めてから初めて知った事。それは、帝人は何か非日常というものに貪欲である事。いや、貪欲と言う言葉では足りないかもしれない。むしろ渇望しているとでも言うべきか。帝人のそれに対する探究心は並では無い。
それに直面したときの彼の表情はいつも興奮が溢れ出していて、まるで帝人こそが違う世界の人間なのではないかという錯覚に陥る程。



「帝人……?」
「すごいよね。セルティさんは僕等にはとても考え付かない事に思考を向けるんだろうね。すごいな……」
「せ、セルティさんって誰……?」



セルティなる人物が誰なのかわからなくて問いかけるが、それには帝人は答えてくれない。変わらず目をぎらぎらと光らせて、黒バイクが走り去った後の道をずっと眺めている。その口元に、妖しげな笑みさえ浮かべて。
その顔があまりにもいつもの帝人とかけ離れていて、大人っぽいだとかそういうものではなく、けれどもどこか遠い人のようで、このままだと自分からどんどん離れていってしまいそうで――



「不意打ちッ」
「うええ!?」



だから、それを誤魔化すように彼の頬に唇を寄せる。驚いてすこし身をよじられてしまったせいで、頬よりも少し唇の近く――唇の端辺りにちゅっと音を立てて一瞬触れた。
そのままじっと見つめると、先程までとは打って変わって、いつもの見慣れた顔を真っ赤にしておどおどとする帝人が現れる。ほんの少し頼りないけれど、真っ直ぐな眼をした少年。
その澄んだ瞳と視線を交えた後、の方からすっと瞼を下ろす。そうすれば、見えないけれども目の前でおろおろとする帝人の様子がわかる。辺りをきょろきょろと見渡して、近くに人がいない事を念入りに確認して。
くいっと急かすように彼の制服の裾を掴めば、の肩にゆっくりと帝人の両手が乗る。そのまま瞼の裏が暗くなって、唇に柔らかな温かい感触。



「帝人、顔真っ赤」
「……だって」



夕焼けに染まっただけでは無い赤みにお互い頬を染めて、眼を開いた瞬間にそう気恥ずかしく笑いあった後もう一度唇を重ね合った。
ほら、その無邪気な赤い頬の笑顔はもう、いつもの帝人。






それは、彼を日常に呼び戻す魔法。